リー・ビリングス『五〇億年の孤独』感想
読んだ。6600万年よりもさらに長い50億年。それは地球が生まれてから生物が住めなくなるまでの時間でもある。
SFでは当たり前のように出てくる宇宙人。ファーストコンタクトものはSFの中でもメジャーなサブカテゴリーの一つだろう。では、実際のところ宇宙人は存在するのか?彼らとコンタクトすることはできるのか?まさにフィクションというに相応しい夢想じみた話だが、そういった夢想に真面目に取り組んだ人たちがいる。
宇宙に知的生命体はいるのか突き止める。この研究分野はSETI(Search for Extra Terrestrial Intelligence)と呼ばれている。本書はSETI研究者たちの野望とSETI研究そのものの来し方行く末を扱った本である。人間としての研究者を重点的に描写している。個人的にはもっと技術的なことや歴史的経緯の系統的な説明あるいはアレシボメッセージみたいな逸話を期待していたので少し肩透かしをくらった感じがした。でも生命探査自体が全く手探りな状態なので系統も何もないというのが正確なところか。むしろ系外惑星、ハビタブルゾーンの探査がメインとなっている。
有名なドレイクの式によるコンタクト可能性から始まり、系外惑星発見競争、天文学の歴史、地球史、生物が自然に与える影響、科学と政治と研究資金、話題はとりとめなく広がっている。最後の話題については日本でもILC誘致と日本学術会議の対立があったなあと思うなどした。いろいろありますね。
感想
- 研究競争の無情さを思い知らされる話が多い。冷戦時代は資金が注ぎ込まれ、系外惑星(太陽系の外にある惑星)探査が盛り上がるとSETIは資金と人材を失って衰退する。その系外惑星探査でも熾烈な先陣争いが繰り広げられる。
- 系外惑星を探査する方法について。トランジットは知っていたが赤方偏移/青方偏移で見つける方法は知らなかった。視線速度法、あるいはドップラー法と言った方がわかりやすいか。何光年も先の恒星が秒速数メートルで動くのを観測できる技術があるというのは本当にすごいと思う。
- 6, 7章では宇宙ではなく地球についての話になっている。地球の活動はスケールが大きくて生物の影響は無視できそうなものだけど、植物が大気組成を変え、温室効果が弱まって気温が下がり、極地の氷床が発達するという例は生物の影響力の強力な証左になっている、かもしれない。
- ハッブル望遠鏡が宇宙で修理されたことは知らなかった。有名な望遠鏡だけど最初は光軸にズレがあったらしい。光学とレンズの調整は大変な作業だと思うがそれを宇宙でやってのけたとは。
- 重力レンズに色収差がないというのは気にしたことがなかったけど、言われてみれば確かにそうですね。屈折を使わないから波長に依存する屈折率が関係しない。どの色の光でも同じように曲がる。