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カルロ・ロヴェッリ『時間は存在しない』感想

わたしたちが[時間]と呼んでいるものは、さまざまな層や構造の複雑な集合体なのだ。

読んだ。

前に読んだ『すごい物理学講義』——タイトルがひどい——と同じ著者による時間についての科学エッセイ。『すごい物理学講義』が面白かったので借りてきた。時間をめぐる物理の歴史を哲学と絡めて分かりやすく語る。三つの部からなり、第一部では現代物理で時間について分かっていることを説明し、第二部では著者の専門であるループ量子重力理論に短く触れる。最後の第三部で熱力学から見た時間、つまり人間が認識するようなマクロなスケールでの時間が存在することを語る。

著者の主張としては時間は人間の認識するような、マクロなスケールでしか存在しないということらしい。量子力学も相対論も無視できて、熱力学が成り立つようなスケールでのみ時間が現れるというのは結構穏当な主張だと思う。

第一部

現代物理学の領域における時間。この手の本の中ではかなり分かりやすく簡潔にまとまっていると思う。時間については相対論、量子論、熱力学の3つの理論と物理の方程式一般からそれぞれ異なる性質が言える。

  • 重力(または質量)は時間の流れを遅くする。あるいは、時間の流れが遅い方に重力による引力が発生する。つまり時間の流れ方は場所によって異なる(一般相対性理論)。
  • 大きな速度で動く物の時間の流れは遅くなる。つまり時間の流れ方は速度によって異なる(特殊相対性理論)。
  • マクロなスケールではエントロピーと時間が関連づけられる(熱力学)。
  • 時間にはプランク時間と呼ばれる最小単位がある(量子論)。
  • ミクロな物理法則では時間に向きは存在しない(時間反転対称性)。

相対性理論でいう速度とは何なのか、というよくある疑問にも注がついている。

運動が相対的な物でしかない場合、二つのうちのどちらが動いているのかを決めるにはどうすればよいのか。この問題は多くの人を悩ませてきた。(めったにあたえられることのない)正しい答えは次の通り。空間内の二つの時計が分かれた点と、再び合流する点とが同じになるような唯一の基準系に対して、「動いている」。時空のなかの二つの出来事AとBの間には一本だけ直線が引けて、その線に沿った時間は最大、つまり最速で流れる。そしてこの線に対して相対速度があると、時間が遅れる。

時空図をかけ!ということらしい。

もう一つ、量子論について。電子の位置の不確定性から時間の不確定性に話が移っているが、位置は物理量なのに対して時間は物理量ではないため、この二者の不確定性は別物である。細かいけど。この本全体が大まかな説明として描かれているというのはそう。

第二部

短い。第一部の半分くらいの分量。かなりポエミーな文体になっている。

世界は出来事のネットワークで、物が存在するのではなく出来事が存在するのだと説いている。そして、時間が存在しないという「現在主義」に対しては全順序としての時間はないが、半順序としての時間は存在すると言う。しかしそれでは実数としての$t$は使えない。そこで著者が研究しているループ量子重力理論が出てくる。これについては『すごい物理学講義』の方が詳しいが、どっちにしろほとんど理解できないという点では五十歩百歩だった。簡単に理解できたら物理学者も苦労しないか。

第三部

この章では熱力学に話を戻して、人間が感じる時間がたしかに存在することを示している。

より基礎的なレベルではそれらが存在しない世界から「生じている」。

この一文が全てを簡潔に言い表している。