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感想を書く。SF、ミステリ、それ以外について。

R・A・ラファティ『宇宙舟歌』感想

「男たちよ! けだものたちよ! 立ち上がれ!」ロードストラムは吠えた。「旅の終わりにたどりつくのは死ぬってことだ。俺たちはまだ行くぞ!」

読んだ。面白英雄譚。

宇宙戦争を生き延びたロードストラム船長が家路に着く話。なのだが、その前にちょっと寄り道しようとロトパゴイという世界に立ち寄ったところで苦難の道のりが始まる。快楽を貪る世界、毎日殺し合う世界、瞬く間に時間が過ぎ去る世界……ロードストラム船長とその乗組員は次々に襲い来る困難を乗り越え無事自分の世界にたどり着くことはできるのか。

ホメロスオデュッセイア』を元にしているらしい。wikipediaにあらすじが載っている。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%83%E3%82%BB%E3%82%A4%E3%82%A2

筋肉に驚くだけで一つの章になることってあるんだ。

オデュッセイア』はトロイア戦争の後、オデュッセウスが帰る話なので確かに元ネタだ。セイレーンとかも出てくる。妻の元に帰ってきたときも求婚者たちをぶち殺している。

「最初のときかい、パパ? お話では、十二の輪を一度に矢で射抜いて、求婚者たちをビビらせたってことになってるよ。その後に殺したんだって」

ただしそれだけではない。巨人たちの世界はヴァルハラをモチーフとしておりこれは北欧神話だし、蜘蛛の怪物を倒す場面ではアラビア神話に言及している。ラファティ流に神話を再構成したのが『宇宙舟歌』なのかもしれない。異なる世界を巡る旅はどこか『ガリヴァー旅行記』にも似ている。

英雄的な感動シーンとふざけた展開が交互にやってくる大法螺話。最初の世界では仲間がチップス(?)にされているのに気付かなかったり、第二の世界で果敢に戦ったかと思えば最後には無理矢理舌を引っこ抜かれたり。その後も同じように、どこか笑えるような苦難と逆転が続く。人食いに怒るけど最初っから食べてるじゃん。秒速二億キロは光速超えてるし。ツッコミどころ満載で転がるように進む話はエンタメとして完成している。頭を使わなくても笑って読める。古き良きスペースオペラはとことん突き詰めると叙事詩になるのかもしれない。