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感想を書く。SF、ミステリ、それ以外について。

R・A・ラファティ『第四の館』感想

「おやおや、今度は超人種族が自分の精神をコントロールできると信じている? 良くないですね、フォーリーさん、たいへん良くない」

読んだ。なんというか……よく分からない。これってSFなのかなあ?

あらすじ

新聞記者のフレッド・フォーリーは国務長官特別補佐が五百年前に存在した政治家と同一人物だというアイデアを〈収穫者〉にそそのかされる。体を変えて蘇る〈再帰者〉たちの謎を追う中でフォーリーは神の入口をめぐる四つの種族の争いに巻き込まれる。紆余曲折の末にフォーリーは〈再帰者〉たちの手に囚われ、抜け出すもそのときには世界の崩壊は始まっていた。フォーリーは〈再帰者〉と一体になるが四つの種族に属した最初の人間として彼は最も神に近づく。

感想

どこまでが現実なのか分からなくなるような幻想的叙述で展開される神秘論的カオスの小説。因果関係というものはどっかに行ってしまい、あっちとこっちがひとっ飛びで直結する。神秘的な力を手に入れた超人類たちが世界の支配をめぐって争い、語り手が巻き込まれていくという陰謀論的なもので、話の筋は追いやすい。

が、最初は説明が何もないので訳がわからない。収穫者と自称する七人の不思議な会話から始まり、読んでいくと彼らは超自然的な精神的作用を他人に及ぼすことができるらしい、ということが分かる。なんか主人公もこの事実を普通に受け入れている。主人公以外も受け入れている。どういうこと?

それから超自然的な能力を持つ組織は収穫者だけではないことが明かされ、四つの超自然的友愛会が出てくる。お話はどんどん神秘的になり陰謀論の方へ転がって神話めいた雰囲気を帯びる。その展開は突拍子もないオカルト、というかトンチキの領域に突っ込んでいるが、それが大真面目に語られる。次々に不可解な事件が起こるが説明はされず、そのまま受け入れるしかない。フォーリーの存在が心強く、彼自身は収穫者の精神的作用に巻き込まれただけの人間なのだが、超自然的な存在や現象を極めて自然に受容するので、深く考えなくていいか、となる。

個人的に面白かったのは陰謀論vs.精神医療のシーンで、主人公の強迫的な思考と精神科医との会話の中で徐々に高まっていくパラノイアが良い。

最終的には〈再帰者〉の企みが成功し、疫病が蔓延りあちこちで暴動と暗殺が起こり、物語は破局を迎える。フレッド・フォーリーは四つの種族と交わりを持ち、循環を打ち破る……かもしれない存在になる。しかしその寓意は?

生涯にわたり、フレディは頼まずとも価値あるものをもらいつづける——権力、生命、世界。

後書きによるとこの小説は宗教的な意味を多分に含んでいるらしい。キリスト教については疎く(キリスト教以外についてもそうだが)、あんまり分からなくても仕方ないと開き直っている。タイトルの『第四の館』からしてそういう元ネタがあるらしい。人間が人間を超えるとき/神と相対するときというのが一つの主題ということらしい。はえー、そうですか、という感じでした。はえー。でも結局第四の館に入ろうとしているのか、第五の館に入ろうとしているのか、循環と破壊のモチーフと第四の都市の関係はなんだったのか、疑問は尽きない。なんとも分からない小説だった。


神秘主義陰謀論。神話。特別好きというわけではないのだけど最後まで熱中して読めたのはやはり作品にそれだけの強度があるからだろう。陰謀論には勢いと興奮とそれ特有の快感があるなあ、と思ったりした。