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感想を書く。SF、ミステリ、それ以外について。

オーウェン・キング/スティーヴン・キング『眠れる美女たち』感想

「先住民のブラックフット族の言いつたえでは、茶色い蛾は眠りと夢をもたらすんですって」

読んだ。

スティーヴン・キングの作品を本で読んだ。スティーヴン・キングオーウェン・キングで親子合作らしい。映画だと『ショーシャンクの空に(原作:『刑務所のリタ・ヘイワース』)』、『スタンド・バイ・ミ—(原作:『The body』(死体))』、『グリーンマイル』は観ている。どれも好きな作品だが、『スタンド・バイ・ミ—』が一番好き(公立中学校ってあらゆるタイプの人間が共存できる最後の時間だよね、という話。中学受験を受けるような人については知らない)。スティーヴン・キングは一応ホラー作家らしいだが、今までキングのホラーを見たことがなかった(『IT』とか『ミスト』とかは観ていない)。なので、これが初めての一作になる。

あらすじ

世界中で女だけが眠りにつく「オーロラ病」が発生する。眠りについた女は繭に包まれ、繭を外側から破ると凶暴化して周りの人に襲いかかる。ドゥーリング女子刑務所にいる謎の女イーヴィだけがその災禍を免れていた。(上巻)

取り残されたドゥーリングの男たちはイーヴィを始末する一派を形成する。刑務所付きの精神科医クリントはイーヴィを守るべく奔走する。一方眠りについた女たちは女しかいない「別の世界」で目を覚まし、その世界で生き延びようとする。(下巻)

感想

第一印象は、長い。上下合わせて900ページくらいある上に、結構な量の登場人物(登場人物紹介が3ページ、48人分ある)の一人称視点の切り替わって書かれているので物語はゆっくり進む。警察、刑務所、家、ホームレス、子供達、父親、リポーター、女、男、……。同時に10個くらいの物事が進行している。上巻の300ページくらいでは、ほとんどドゥーイングという田舎がどういう場所で、その人間関係がどうなっていて、各々がどのような(物語の中で扱われるべき)問題を抱えているのかが説明される。パニックが本格的に起こり出すのが上巻のラストからで、ちょっと遅いように思った。

でもDV親父のフランクのくだりとかは面白い。自分が正しい/被害者の代理人であって、それを解決するのは自分の暴力と怒りであるみたいな造形が本当に最悪な男という感じでよかった。怒りを抑えられない男。刑務官のドン・ピーターズとか悪ガキ三人組とかは、コテコテの悪役すぎて、こんなん現実におる?という感じになるが、まあ、いますね(残念ながら)。

精神科医クリントの妻で警察署長のライラが眠るところまでが上巻。だいたいの女が眠りについて、男たちが騒ぎを起こすのが下巻。騒ぎで問題を起こすための説明・伏線パートがまじで面白くない上に長すぎるのが問題だと思います。

テーマは男女の対立。とりわけ、女が常に弱い立場におかれることに力点を置いている。上巻のはじめにサンディー・ポージーのボーン・ア・ウーマンから歌詞を引用している。

金があっても貧しくても、

頭がよくてもわるくても、

昔と変わらぬこの浮世、

女の居場所は決まってる。

どこかの男の手の中さ。

いったん女に生まれたら、

傷つくものと決まってる。

嘘をつかれて

だまされて

ごみ同然に捨てられる。

支配する夫と支配される妻。搾取する息子と搾取される母。暴力を振るう男と暴力を振るわれる女。全てを男、女、セックスという感じで語っているので時代遅れな感じがあるが、重要なテーマを扱っていると思う。だいたい、田舎というのは大抵時代遅れだ(偏見)。女が繭にくるまってしまうというのは典型的な神話をなぞっていて、例えば天岩戸神話なんかがある。とにかく、男たちの最悪なDV、ドメスティックですらない暴力、女に対する無意識の優越感、破壊衝動が出てきて、最悪になる。

ホラー小説らしいが、怖さは控えめ。モダン・ホラー?っていうらしい。繭に包まれた女たちが生きていることが強調されるので最終的には元に戻るんだろうな〜と安心して読める。でも最後に女たちが戻ってくる決断をしたりとかイーヴィが守られたら帰ってこれるチャンスがあるとかプロットのためのご都合主義っぽくもある。なんで世界規模の異常現象がアメリカの片田舎での出来事でカタがつくのか、ちょっと考えたらわからない。ファンタジーだからいいんだけど。セカイ系

描写も冗長で安直なきらいはあるが、最悪な田舎と男たち(田舎の男たち?)を見れたのでよかったです。ただし読むのにかけた時間には見合わないと思いました。長編は大変だったので、読むとしたら今度は中編、短編を読みたい。