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感想を書く。SF、ミステリ、それ以外について。

アガサ・クリスティー『火曜クラブ』感想

「——きょうは何曜日でしょう?火曜日ですわね。では火曜クラブとでもして。会合は毎週一度。みんながかわるがわる、何かしら問題を出すことにして——」

読んだ。

現代は "The Thirteen Problems"(13の事件)。アガサ・クリスティといえばミス・マープルよりエルキュール・ポアロが有名だ(と勝手に思っている)のだが、クリスティ本人はマープルの方が好きらしい。短編に向いているとか。私は短編好きなのでミス・マープルの方が好きかもしれない。読んだことないけど。これが初めての作品になる。

解決した奇妙な事件をそれぞれがもちより、その解答を推理する火曜クラブ。メンバーは作家のレイモンド、牧師のペンダー、画家のジョイス、弁護士のペサリック、元警視総監のヘンリー、そしてミス・マープル

「青いゼラニウム」以降の話は火曜クラブではなくバントリー夫妻の晩餐会での謎解きになる。こちらはマープル、ヘンリーに加え、バントリー夫妻と医者のロイド、女優のジェーンが議論する。

最後の「溺死」は普通の推理もの。特に議論はなく、ヘンリーが推理を行う。

多重推理ものの初期の作品の一つ。多分。アントニー・バークリー『毒入りチョコレート事件』と同時期に発表されている。そんなに推理合戦という感じではなく、ミス・マープルの名探偵ぶりが際立つ。

火曜クラブ

  • 火曜クラブ、その設立の日の話。
  • 夫妻とそのコンパニオンが食中りを起こし、妻が亡くなった。それは本当に食中りだったのか火曜クラブの面々は議論する。
  • あられ砂糖のことを hundreds and thousands と言うらしい。知らなかった。
  • ダイエット中という記述には気づくべきだったか。確かに〜。

アスタルテの祠

  • 異教の古墳が近くにある屋敷を買った男。パーティを開いたその夜、アスタルテの祠の前で従兄が刺殺される。しかしそこには凶器がなかった。
  • 確認した人が刺していたと言うオチ。これはわかりやすい。

金塊事件

  • コーンウォールの難破船から金塊を引き上げる会社を買い取ったニューマン氏。しかし彼は行方不明になり、捜索ののち、自邸の側溝に縛り上げられている状態で発見される。よそ者を嫌う元潜水士の男に容疑がかかるが……。
  • 自作自演。他で盗んだ金塊をロンダリングするために仕組んだ。だいたい、自分の家の敷地で見つかる時点でおかしいよね。

舗道の血痕

  • コーンウォールの漁村に滞在していたジョイス。そこに一組の夫婦とけばけばしい女が現れる。彼らが海水浴に行ったあと、ジョイスも海水浴に行く。午後、戻ってきて絵を描いていると舗道に点々と赤い血がついていることに気づく。
  • 入れ替わりトリック。海で妻を殺して女が入れ替わる保険金殺人。血は赤い水着についていたものに気づかず、それを干していたため舗道に滴っていた。
  • 分かんなかった。観光地でなんか説明してくるおじさん(大抵説明は長い)ってどこにでもいるんだ、と思った。

動機対機会

  • 降霊術師にはまって死んだ老人。死ぬ前に彼は遺言状を、遺産は降霊術師に全て渡すように書き換えていた。遺言状を金庫に預かっていたペサリック。しかし、二ヶ月後に遺言状が白紙になっていた。すり替える機会があったのは動機のない降霊術師たちだけ。
  • というミスリード。実際には書く段階で消えるインクが使われていた。万年筆のくだりが不自然なので気付けた。嬉しい。
  • 消えるインクってこのころからアイデアとしてはあったんですね。ここではヨウ素デンプン反応が使われている。

聖ペテロの指のあと

  • マープルの姪、メイベルに夫殺しの嫌疑がかかる。
  • 夫の父親が殺していたというオチ。
  • 謎解きは言葉遊びなのでわからなかった。というか、パイロカルピンって何。
  • クリスティとかクイーンとか、この時代の人、精神障害を便利な道具に使いすぎでは。

青いゼラニウム

  • 心霊透視家を名乗るザリーダなる人物に死を予言されたミセス・プリチャード。彼女バントリー大佐の友人ジョージの妻で、癇癪もちの病弱な女性だった。予言では青いゼラニウムは死を意味するという。予言通りに彼女は死に、壁紙のゼラニウムは青色になっていた。
  • 看護師が犯人。気つけ薬と青酸カリをすり替えていた。なるほど。確かに手紙のくだりで気づくべきだったなあ。
  • 結局なんで花を青色にしてたのかよくわかっていない。ミスリードだったっぽい。

二人の老嬢

  • 資産家とそのお付きのコンパニオン、二人の老嬢がカナリア諸島に保養に来ていた。海水浴中に一方が溺死するがそれはコンパニオンの方だった。
  • 遺産狙いの入れ替わりトリック。
  • これ、『謎のクィン氏』で使ってたアイデアですよね?リサイクル?

四人の容疑者

  • ローゼン博士は黒手団というテロ集団を解体したが、その報復によって殺されてしまう。容疑者は同居していた四人に絞られる。外部からの指令はどのようにして誰の手に渡ったのか。
  • 手紙に混ぜた花の頭文字がDEATHになっていた。犯人は姪。
  • これも言葉遊び。チンタオって青島のことじゃなかったんだ。
    • Tsingtau で検索したら Qingtao(青島)が出てきた。どういうこと?
    • Qingtao の昔の表現が Tsingtao だったっぽい。そんなん分かるわけないだろ。

クリスマスの悲劇

  • クリスマスに水治療院を訪れたマープルは、そこで見かけた夫妻を観察して夫が妻を殺すと予見する。そして、予想通りに妻が殺されるが、夫にはアリバイがあった。
  • 概要を書くのが面倒になってきたのでWikipediaから引用した。この先もそうしよう。全部書いてあるじゃん。
  • 死体の入れ替えトリック。わからなかった。顔が見えないので気づくべきだったか。

毒草

  • ある資産家の食卓で食中毒が起こり、女の子が一人死亡する。原因は、食材に紛れ込んだジギタリスの葉だと判明する。
  • 木を隠すなら森の中。ジキタリスの葉とは別にジキタリンという薬を飲ませて殺していた。
  • ジキタリスって何?
  • 水平思考ゲームみたいに質問しながら謎を解いていくのが面白い新機軸。

バンガロー事件

  • ジェーンが地方巡業していた頃、ジェーンから手紙をもらったという青年が現れる。彼にはハーマン氏のバンガローから、彼がある女優に送った宝石を盗んだ泥棒の嫌疑がかかっていた。彼は手紙の指示通りにバンガローに行ったところ、通報され、捕まったのだ。しかしバンガローの関係者はその日誰もおらず、通報もしていないという。誰が盗み、誰が通報したのか。
  • ジェーン自身も加担した自作自演、のアイデア披露。犯罪は未然に防がれた。
  • ジェーンの話し方が要領を得ないので、話自体がわかりにくい。謎解き要素はどこにあったか分かってないです。

溺死

  • ロンドンから来た男の子を身篭った田舎の娘が溺死体で発見される。当初自殺と思われた事件は手首に見つかった痣から殺人であると判明。ミス・マープルはヘンリーの下へ赴き、この殺人事件の犯人を知っていると言う。
  • スリードがすごい。露骨すぎて真犯人がわかるかもしれない。私はわかりませんでした。
  • 犯人はローズを崇拝するジョー、ではなく、ジョーの下宿の管理人、ミセス・バートレット。
  • ジョーのアリバイを作ると見せかけて自分のアリバイを作っていた。
  • ミス・マープルの推理はなく、答えを渡されたヘンリーが推理を行う。

謎解き、というか、この人のこの行動が怪しい/伏線だろうみたいなのは見当がつけられそう。短編ミステリはたいていワンアイデアのひねりなので、初心者でもここが怪しい!と言えるので嬉しい。綾辻行人『どんどん橋落ちた』みたいに謎解きをしながら読める短編集。そんなこと言い出したらミステリ短編全部そうなりそう。