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感想を書く。SF、ミステリ、それ以外について。

シオドア・スタージョン『輝く断片』感想

どこまでも荒涼と続く、がらんとした暗い回廊をながめ、そして、いままさに彼の手から離れようとしているはかない輝く断片を見た……。

読んだ。

シオドア・スタージョン二冊目。前に読んだ『不思議の一触れ』とは違ってブラックさが前面に出た話が多かった。あとちょっと古さを感じる。それでも繊細な描写と人間に対する深い洞察は健在で、というか一層キレを増していて、今でも通用する短編ばかりなのは流石。

ジャンルをどうしようか迷ったが、あんまり増やしたくないのでSFに分類する。でもSF要素はほとんどない。奇想コレクションだから。えいっ。

取り替え子

取り替え子という赤ちゃんの扱いに問題のある両親のもとに訪れる妖精みたいな存在の話。チェンジリングを元ネタに、軽いブラックユーモアが効いた短編。まずは軽いジャブからみたいな話。

ミドリザルとの情事

ミドリザルはマイノリティのこと。男らしさを誇示する夫。なよなよした男。揺れる妻の気持ち。最後の急展開は笑った。そんな大きいってことある?え?どういうことですか?

旅する巌

訳者解説でSFとしては失敗作と書かれている悲しい作品。確かに、作家、というか出版業界の事情のドロドロした感じが描かれるパートの方が読み応えがあった(個人の感想です)。話は結構面白い。でも最後はやっぱり急展開。え?そうなるの?

君微笑めば

サイコパスの話。有能でなんでもできるサイコパスといつも笑いを浮かべている抜けた人間。サイコパスの方の人間の造形がかなり嫌。酒場で持ち上げたと思ったらこき下ろす、ジェットコースターみたいな説教するあたりとか。殺人事件についての調査からは普通のサスペンスとして面白い。

ニュースの時間です

ニュースにこだわる夫。それを(独善的に)取り上げてしまう妻。夫は家を飛び出し、言語能力を失い、世俗と孤立した生活を始める。男は善良さゆえに世界の汚さに耐えられなかったのだ。最後の急展開がすごい3(スリー)。

エストロを殺せ

バンドのリーダーを殺したという男の語り。なんでも器用にこなすリーダーと対比して自分が認められていないというコンプレックスを持つ男の心の裡が見事に描かれている。バンドで自分だけ気にかけられていないみたいな自意識が生々しい。主人公がかなりしょうもない。しょうもなくないのかもしれない。殺すのに二回失敗したというが……。三回目の殺害を企てる主人公が非常にいい。前半で提示された鬱屈が狂気に変わり、次第に常軌を逸した執着になっていく様は読んでいてゾクゾクした。

ルウィリンの犯罪

どうしても悪いことができない男の喜劇。男にとっては悲劇。これも主人公がかなりしょうもない。全く自分で生活できてなくて笑った。そんなことある?話の流れは天丼を繰り返すだけなのだがかなり笑える。ルウェリンが拘る男らしさは「ミドリザルとの情事」と通底するものがある。

輝く断片

知的な遅れがある醜い男が怪我をした女性を介抱するところから始まる話。主人公がかなりしょうもない2(ツー)。病院や警察に連絡すらできないというところから始まり、怪我の縫合から料理まで全部自分でやろうとする男。異様な雰囲気が文章から滲み出ている。誰にも必要とされなかった男がついに見つけた輝く断片とは。

最初の三作以外はひとまとまりのテーマから選ばれているということで、何かに異様にこだわる男たちが狂気に陥る様が描かれている。「マエストロを殺せ」が異色の出来栄えでかなり面白かった(異色といえば「輝く断片」もそうだけど)。あとは「ニュースの時間です」も結構好きです。