米澤穂信『満願』感想
鵜川妙子は五年の服役の果てに、満願成就を迎えられたのだろうか。
読んだ。
ミステリといえば人間が書けていない、人間が書けていないといえばミステリ、みたいな向きもあるが、本作はむしろ人間のドロドロした側面を押し出した短編が揃っている。意外な真相も用意されてあり、その明かし方もうまい。「関守」とか。あと、怖い。人間が。米澤穂信は青春を舞台にした小説が有名だが人間が怖い系の話も結構だしている。もちろんミステリも。私は『折れた竜骨』が一番好き。ミステリーと物語の二軸を両立させる手腕は流石。
まとまったあらすじがWikipediaに載っている。
夜警
- 殉職した警官の話。ワイダニット。
- そんなことのために人を殺す?となった。
- でも回収の仕方、殉職した警官の為人とか語り手の後悔とかが上手いことラストに繋がっていて面白い。
だがこの交番にいたのは、警官に向かない男たちだった。
死人宿
- 前に読んだことがあるので再読。フーダニット。
- これだけ謎解きになっている。
- 最後にもう一人自殺者がいたこと、それに対する二人の反応が良い。
柘榴
全体的に背徳的な雰囲気が漂うので先は読める。
姉の計画が完璧すぎて唸った。頭が良すぎる。
万灯
- モーレツ商社マンの話。犯罪小説的な。
- ある意味ではかなり高潔な志を持った人間。そんなことのために人殺す?(2回目)
- 裁きへの持って行き方が上手。なるほど、となった。「裁き」自体が天に任されているというのも面白い。
関守
- 怪談を書くライターの話。ある峠で事故が多いため、それをネタにすべく取材しに行く。この短編自体が怪談チック。
「ねえ、聞こえるかね。お兄さん、聞こえるかね。まだ聞こえるかね」
重いまぶたを、かろうじてこじ開ける。
すると目の前に、老婆の目が。笑っているような目が、俺を覗き込んで。
「——それとも、もうそろそろ、聞こえんかね」
- コワー。
満願
- 表題作。鵜川妙子はなぜ人を殺し、なぜ勝算のあった控訴を取り下げたのか。
- そんなことのために人殺す?(3回目)
- 控訴を取り下げる必要はなかったのでは。と思った。
個人的には「万灯」が一番面白かった。話の構成が巧みで、ラストに謎が解明されると同時に物語の方も完結するスタイルなので読者に与える印象が強くなる。読者を楽しませるのが上手な作家さんだと思いました。
日記
- 今日(投稿日)、DMMブックスで本を買った。70%オフだったから。50冊くらい。これは痛い出費だが、長期的には経済的になる。なってほしい。
- SFを中心に買った。その内感想を書く。
- DRMっていうのは悪い文化だと思う、本当に。