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感想を書く。SF、ミステリ、それ以外について。

島田荘司『異邦の騎士』感想

どこまでも歩き続けた。歩いて歩いて歩き続け、地の果てまでも行きたい気分だった。どうせここは見知らぬ異邦の地だ、どこまで行こうと同じことだと考えた。

読んだ。

ミステリだと思って読んだが、半分くらいまで記憶喪失の男の生活が描写されて謎や事件のかけらも見当たらない。男の過去とか良子の態度とかなんか不審な点はいくつか匂わされる。男が自分の過去を尋ねて一つのノートを見つけた時から物語が動き出す。ただ、前半パートもなかなか退屈させない。肝心のミステリ部分は本格謎解きという感じではなくて、解決も強引な気がしたけど面白かった。

御手洗潔シリーズを読むのは初めて。作者が陰謀論にハマっているらしい。悲しいね。人は悲しい。登場人物について言えばなかなか魅力的な名探偵キャラクターだと思った。世捨て人で変人、博学で多才。王道をゆく名探偵。

あらすじ

記憶喪失の男が公園で目を覚ます。彷徨していると若い女、良子と出会って同棲する流れになる。同棲生活は幸せだったが、男は忘れた過去に妻子がいたのではないかと恐れ、女が隠していた自分のものと思われる免許証を頼りに自分が住んでいた家にたどり着き、一冊のノートを見つける。それは妻が二人の男に騙されて凌辱され、殺されたという内容のものだった。そして自分が復讐を誓ってそのうちの一人を殺したという手記も見つける。もう一人も殺そうとするが良子に制止され失敗に終わる。もう一度殺人を試みるもここで御手洗が事件の真相を解決する。男にはもともと妻子はなく、ノートも手記も偽物。記憶喪失の患者に殺人をさせるために量子の家族によって仕組まれた計画だった。動機は遺産と保険金。ただ、良子が男に本当に惚れてしまったために計画を阻止しようとしていたことが語られる。最後に良子が本当に男を愛していたこと、一緒に暮らせて幸せだったという手紙を読んで終わる。

その他

  • 記憶喪失で鏡恐怖症だからって他人の免許証を自分の免許証と認識させるのは大胆。ばれるやろ。

  • 未来視ができるとかもう一人の自分が現れるとかでリアリティラインがどの辺にあるか心配になったが完全に騙されていただけだった。理想的な読者。

  • この記憶喪失の男、石岡という本名が最後に判明するのだが、この後のシリーズ物にも出てくるらしい。というか、これはシリーズ三作目で御手洗と石岡のエピソード0という位置づけらしい。

  • 孤独な男が変人御手洗と交流を持つようになるところが個人的に好き。喫茶店で御手洗が一席ぶつくだりとか。この演説も面白いし。御手洗シリーズが読みたくなる一冊だった。

  • 最後にタイトル回収。

    決まって私は、鉄の馬に跨り、颯爽と夜の荒川土手に現われた、二十代の御手洗潔を思い出す。