島田荘司『御手洗潔のダンス』感想
読んだ。
山高帽のイカロス
飛行願望のある画家が、空を飛ぶようなポーズで電線に引っかかった状態の死体として発見された。奇怪な事件に御手洗潔が挑む。
トマソンを題材にしたミステリ。島田荘司は奇怪な状況を作るのが上手いと思う。
『御手洗潔の挨拶』でも同じようなトリックがあったと思う。物理トリックをメインにした殺人事件は今どきのミステリでお目にかかれないので新鮮に感じた。話自体はスムーズに進む普通のミステリ。パズラーでもなく、物語の方もあっさりとしている。
ある騎士の物語
起業サークルの姫の話。サークルの姫とその取り巻き。誰が殺人を犯したのか。
こちらもトリックがメインではなく物語の方に主眼が置かれている。
トリックが突飛すぎる。そうはならんやろ。
石岡の大学の先輩なる人が出てくるのだけど、『異邦の騎士』の設定と矛盾してる気がする。まあいいか。
舞踏病
一心不乱に激しく踊る老人の秘密。真相は……。うーん。ミステリっぽくはないが、それ以外に見るべきところがあるかと言われると?
- 御手洗の発言がひどすぎる。笑った。時代背景もあるが、今はこんな風に書けないだろう。
戦士から戦場を奪ってもまだしも生きていけるが、PTAから戦闘をとってごらんよ、彼女たちは全員自殺しちまうか、もっと頭がおかしくなるぜ
- 作品から著者を語るのは愚かであるのは重々承知の上だが、こういった攻撃性やミソジニーには著者が陰謀論に嵌った片鱗が表れていると思う。悲しい。
近況報告
ミステリではない。その名の通り御手洗潔の近況報告。ファンサービスらしい。かなり説教臭い内容になっているし、内容自体も古びている(例えばヒトゲノム計画は2003年に完了している)。作者の思想を登場人物に代弁させているだけのように見えて、あまり自分には合わなかった。
全体的に御手洗潔の影が薄く、個々の物語をクローズアップしている(「近況報告」があるのでバランスが取れているかもしれない)。また、ミステリがかなり薄味。正直な感想を言えば、どれもいまひとつといった印象を受ける。『御手洗潔の挨拶』の方が面白く感じた。この短編集の中ではでは「山高帽のイカロス」が面白かったかな。