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感想を書く。SF、ミステリ、それ以外について。

島田荘司『占星術殺人事件』感想

これは私の知る限り、最も不思議な事件だ。おそらく世界にもまずめったに例を見ない不可能犯罪であろうと思う。

読んだ。

島田荘司のデビュー作にして御手洗潔シリーズの第一作目。プロローグ部分からわかるように、読者の謎解きを主眼に置いた本格ミステリになっている。奇抜なトリック、華麗な推理、意外な真相と本格ミステリに必要な要素を全部おさえた正統派。

40年前に起きた猟奇的な連続殺人事件。事件の顛末を語る石岡とそれを推理する名探偵の御手洗の会話によって物語は進んでいく。狂気に取り憑かれた画家が残した遺書の筋書きに沿って殺された6人の娘。事件は迷宮入りして有名になっているのであらゆる推理が為されていて、事件について語り終えるのに半分近くの紙面が割かれている。この部分は正直かなり冗長で、無駄な脱線が多いように思った。もっと短くまとめられたのでは。捜査が始まってからも同じ印象を受ける。最後の種明かしまで読者を焦らす構成ですね。犯人がわかってからは面白くなる。終わりよければすべて良しって『ファスト&スロー』にも書いてあった。

感想

  • 有名ではあるが30年前の作品で、時代を感じる。今読んでも面白いというよりは、ミステリの教養としておさえておくと良い古典という感じ。30年前の小説で40年前の事件を扱っているので、執拗に細部にこだわる描写に対して作中で出てくるトリックは雑。今どきのミステリでこんなの使ったら怒られそう。流石にそれが分からないのは無理があるでしょ、みたいな。

    • 実際作中でも無理があると言われている。でもメイントリックは面白かったので良いか(同じトリックを使った別の作品の方が有名かもしれない。でもこっちが先なんだよ!)。
    • 例えばベッドのトリックは一応犯人が準備しなければならないが、ベッドがずれていただけでそんなに突飛な推理になるかなあというところ。その方法で床に痕跡が残らないっていうのはちょっと無理があるように思う。
  • 第一作目ではあるが、御手洗シリーズの他の作品から入った方が楽しめると思う。まずは短編集とかから。

  • 御手洗潔のキャラクターが良い。これは『異邦の騎士』を読んでからずっと言っている気がする。キャラクター小説としての探偵小説という点で言えば御手洗シリーズは傑作だと思っている。本作は御手洗潔の初登場ということもあってか結構アクの強い描写もあったりするが、原型は変わらない。このキャラクターが好きになれるかが面白いと感じるかの分岐点になりそう。