斜線堂有紀『楽園とは探偵の不在なり』感想
「天国が存在するか知りたくないか」
読んだ。
特殊設定ミステリ。テッド・チャンの「地獄とは神の不在なり」に影響を受けたとある。確かにあれは傑作だった。本作は善悪と正義、宗教、神の公平さについて語っていたか。天使と地獄の実在する世界。探偵や犯人の身の上はある程度そんな要素があったように思う。
この先でいろいろぶーたれるが、普通におもしろかった。全体的にライトなノリでさくさく読める。特殊設定ミステリのお約束もある。雑に出てくる天使はエイリアンじみていて不気味な雰囲気がある(単行本カバー好き)。謎解きも普通の本格で(本格って何?)。
本家超えかと言われると、うーん、となるところがあった。勿論、そもそもミステリとSFでは色々違いもあるだろう。天使や地獄をどう道具立てするか。砂糖が好き。ライトチェイサー。ただ、テーマがあるなら、それを前景化した不思議な世界を掘り下げるSFの方が相性がいいなと、読んでいてそう思った。是非そんな思いを吹き飛ばすような特殊設定ミステリが読んでみたい。
リアリティのラインみたいなのものが合わなかった感じもする。天使や地獄それ自体のことではない。この世界なら代理殺人は誰でも考えつくだろ、毒の方がテロとしては良くない?、普通の殺人は?、とか……。
天使が現れることで1人殺す権利というめちゃくちゃな概念が出てくるとか、厳密なラインが敷かれることで逆にそのギリギリまで倫理が後退するのは面白かった。
今の世界も何人でも殺していいし、閾値(天使じゃなくて刑法で定まってるやつ)を越えるなら多ければ多いほどいい。じゃあ今はどうしてそうなってそうなっていないのかは掘り下げる価値があると思う(2020年、日本の自殺者は約二万人だった)。
もう一つの例としては拷問とかも増加してもいいように思う(一度だけの権利なら最大限の利得を得たい)。別に殺さなくても両目両腕両足を破壊して放置とか。それで死んだら殺人にカウントされちゃうかな。
特殊設定を使った割には、という思いがある。個人的に。2人殺せば地獄行きのルール、グロテスクな天使。設定自体が魅力的でキャッチーなのは分かるがそれを丁寧に使い倒して欲しかった。